第九十六回
ジャズ・ミュージシャンの名演を、最新LPCDで聴き比べる

2026.01.01

文/岡崎 正通

レコードで世に出た名演の数々がCD化されるというのは、これまでずっとおこなわれてきたことであるけれども、最初にCDで出た作品があとからLP化されたり、LP、CDの同時リリースというようなケースも昨今では多く見られるようになった。そんなLPとCDの音を比べてみるのもオーディオ・ファンならではの楽しみであるだろう。今回は、年末にリリースされた最新LP3点を同タイトルのCDと聴き比べてみた。

♯310 ビッグバンド・ジャズの最先端をゆく“No Name Horses”

Day1/小曽根真 No Name Horses

「Day1/小曽根真 No Name Horses」
(ユニバーサルミュージック LP ⇒ UCJJ-9056~57, CD ⇒ UCCJ-2242)

胸のすくような切れ味をもつビッグバンドのアンサンブルを耳にするのは、ジャズの極上の楽しさであるとともに、オーディオ的な快楽でもある。ピアニストの小曽根真がリーダーになった“No Name Horses”が結成20周年を迎えた2024年にCDリリースした「Day1」が、昨年(2025年)暮にアナログLPでも発売になった。わが国の錚々たるトップ・プレイヤーばかりを集めたグループの演奏は、ダイナミックなスイングを基本に置きながらもフレッシュな感覚に溢れていて、まさに今日のビッグバンド・ジャズの最先端!小曽根のオリジナル6曲とメンバーの作品が3曲。どの曲も手の込んだ複雑なアレンジを鮮やかに吹ききってゆくアンサンブル陣の完璧な表現力に感心させられる。

アルバム・タイトルになっているオープニング曲<Day 1>からスピード感をもつバンドの魅力が全開!リーダーのピアノはもちろんのこと、各曲に散りばめられたメンバーたちのソロも聴きごたえ十分。バロックを思わせる典雅なハーモニーからワルツに変わる愛らしい<My Wiener Schnitzel>、バス・トロンボーンとベースにスポットが当てられた<Moules Mariniere>、そしてバラード曲<Infinity>ではエリック・ミヤシロの美しいフリューゲル・ホーン・ソロがフィーチュアされる。CDとLPを聴き比べると、CDの音のほうが、ややソリッド。LPは心なしかピアノが前面に出るとともに、バンドの響きに温かさと広がりが加わっているように思う。CDオリジナルのLP化では、収録時間の関係で何曲かがカットされてしまうことが多いが、当LP盤は2枚組。CDに収録されていた全曲をたっぷり聴くことができる。

♯311 孤高のソロ・ピアノ演奏

花道~ファイナル・スタジオ・レコーディングVol.2/菊地雅章

「花道~ファイナル・スタジオ・レコーディングVol.2/菊地雅章」
(Tokyo M-Plus LP ⇒ RH-1008LPS, CD ⇒ RH-1008CDS)

まるで眼前に置かれたグランドピアノが鳴り響いているようにクリアーな録音。ピアノの弦を叩くハンマーのアクションまでが目に見えるようなリアルなサウンドに驚かされる。長きにわたってニューヨークで活動をおこなってきた日本人ピアニストの菊地雅章が、亡くなる2年前の2013年暮にニューヨークのスタジオでおこなったソロ・パフォーマンス。孤高の表現を聴かせてきた菊地の音楽は、この頃いっそうの精神性を深めていっていた。音数少なく、余分なものをいっさいそぎ落としたような簡潔な響きをもっているものの、思いのたけを指先に乗せてメロディーを弾き上げてゆく菊地の集中力は凄まじいものがある。

すでに2021年に「花道1」が世に出ていて、これは同日の未発表だった演奏を収めたもの。<カーニバルの朝><アローン・トゥゲザー><愛するポーギー><マイ・シップ>など美しいメロディーをもつスタンダード曲の間に、自由な即興トラックが挟み込まれている。菊地の生きざまのすべてが込められているようにも思われる“魂の音楽”。CDの音質も素晴らしいが、LPは無着色のクリアー・ヴァイナル盤で、手にする喜びをいっそう感じさせるものになっている。

♯312 ベテラン・ドラマーが奏でる極上のジャズ・グルーヴ

キャラバン/大隅寿男

「キャラバン/大隅寿男」
(LP ⇒ ポニー・キャニオン PCJA-00197, CD ⇒ M&I MYCJ-30663)

日本のジャズ界を代表するベテラン・ドラマーのひとり、大隅寿男のプレイは、いつも心地良くスイングする極上のジャズ・グルーヴの世界へと聴く人を誘ってくれる。そんな大隅が“ミュージシャン活動50周年”を記念して2019年に吹き込んだアルバム「キャラバン」が昨年(2025年)暮にアナログLPとしてもリリースされた。(CDは10曲、LPは6曲を収録)。CD発売時に録音の良さでも評判になった作品だが、アナログLPではスモール・コンボの温かさのようなものが、いっそう伝わってくるようだ。

趣味の良いプレイを聴かせるピアニストの関根敏行、確かなビートを刻んでゆくベースの横山裕とのトリオに、曲によって息子の大隅卓也がアルト・サックスで加わる。ソロイストから最良のものを引き出してゆくリーダーの技量が光るタイトル曲の<キャラバン>。ちょっぴりエキゾティックな<ポインシアナ>。ファンキーな響きが楽しい<ザ・ジョディ・グライント>と<ダット・デア>。どの曲も大隅寿男の細やかなドラミングから極上の雰囲気が発散されてゆく。ハッタリのような要素は微塵もなく、綺麗なシンバルのレガート、豊かなスイングの中にジャズのスリルを感じさせる演奏の数々。それは大隅の人柄そのもののようにハッピーで温かい。ジャズの酸いも甘いも知り尽くした大隅の、ベテランならではの名人芸をたっぷり味わいたい。

筆者紹介

岡崎正通

岡崎 正通

小さい頃からさまざまな音楽に囲まれて育ち、早稲田大学モダンジャズ研究会にも所属。学生時代から音楽誌等に寄稿。トラッドからモダン、コンテンポラリーにいたるジャズだけでなく、ポップスからクラシックまで守備範囲は幅広い。CD、LPのライナー解説をはじめ「JAZZ JAPAN」「STEREO」誌などにレギュラー執筆。ビッグバンド “Shiny Stockings” にサックス奏者として参加。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。