第九十九回
ピアノ~ギター・デュオの魅力

2026.04.01

文/岡崎 正通

バンドのもっとも小さな編成であるデュオ(二重奏)。デュオにはさまざまな形があって、管楽器とピアノ、管楽器とベース、弦楽器とピアノなど組み合わせはさまざま。とは言ってもピアノとギターのデュオというのは、そんなに多くない。どちらも和音を奏でることのできる楽器なので、ハーモニーがぶつかり合うこともあるところから、共演する機会が少ないのかもしれない。そんなピアノ~ギター・デュオの作品を3枚。それぞれのミュージシャンの思いが強く表れるのもデュオ形式ならではのものがあって、そんなプレイヤーの持ち味をお楽しみいただければと思う。

♯319 知的に洗練された“特別な”デュオ・アルバム

アンダーカレント/ビル・エヴァンス&ジム・ホール

「アンダーカレント/ビル・エヴァンス&ジム・ホール」
(Esoteric ESSJ-90317)

ピアノとギターのデュオといえば真っ先に浮かんでくるのが、1962年に吹き込まれた本アルバム。エヴァンスとホールという卓越したプレイヤーがもっている繊細な歌心や、ロマンがこぼれるような抒情性。知的に洗練された即興が見事なインタープレイに昇華された“特別な”デュオ作品である。

まずは一曲目の<マイ・ファニー・ヴァレンタイン>に込められた、ふたりの冒険心! アップ・テンポで繰りひろげられるインタープレイは、この曲のもっているイメージを覆すかのように大胆でスリリング。メロディーやハーモニーを生かしながらも、自在な即興プレイによって互いを触発し合うところから、終始張りつめた緊張感が持続してゆくのが凄い。あとの曲はバラードが中心になっているものの、いずれも高雅な詩情に貫かれた美しい演奏ばかりが並んでいる。その名のとおり、夢見るようにロマンティックな情感あふれる<ドリーム・ジプシー>。そして静謐な中に燃えるようなメランコリーが秘められた<ロメイン>。印象的なジャケット・カヴァーは、当時“ライフ”誌などの仕事をしていた女流カメラマン、トニ・フリッセルの写真を使っている。オリジナルLPは6曲だったが、その後に未発表曲や別テイクが発見されて、CDでは10曲が標準になっている。昨年12月に発売されたエソテリック盤で、エヴァンスとホールの豊かな音楽的会話をたっぷり味わいたい。

♯320 「アンダーカレント」から40年を経て吹き込まれた、新しい世代のデュオ作品

タイムライン/ジョン・アバークロンビー~アンディ・ラヴァーン

「タイムライン/ジョン・アバークロンビー~アンディ・ラヴァーン」
(Steeplechase LP G-1538)

幅広い音楽性をもっていたギタリストのジョン・アバークロンビー(1944.12~2017.08)とピアニストのアンディ・ラヴァーン(1947.12~)は、折にふれて共演してきたキャリアをもっている。ふたりはビル・エヴァンスの音楽を愛していて、これまでにもエヴァンスのレパートリーをいくつかプレイ。さらにアバークロンビーは“僕はジム・ホールのプレイに大きな影響を受けているんだ”とも語っている。

そんなふたりが上記「アンダーカレント」(♯319)に触発されて2002年秋、スティープルチェイスに吹き込んだのが、このアルバム。冒頭の<マイ・ファニー・ヴァレンタイン>を聴けば、ふたりのデュオがエヴァンス~ホールのプレイを意識しながらも、ひと味違う独自のアプローチをおこなっているのが良く分かる。対話というよりも、両者がそれぞれのソロを引き立てながら流れてゆくようなデュオ・スタイル。<ダーン・ザット・ドリーム><スケーティング・イン・セントラル・パーク>など「アンダーカレント」に含まれている曲のほか、<インナー・ヴォイス><アダージョ>などのラヴァーンのオリジナルでも密度の濃いデュオが耳にできる。「アンダーカレント」から40年を経て吹き込まれた、新しい世代のデュオ作品。180グラムの重量盤。2025年夏にリリースされたスティープルチェイスの高音質LP“Audiophile Edition”の一枚。CDは2003年にリリースされたが、これが初LP化となる。

♯321 未知のデュオ表現の可能性を感じさせる、フレッシュなデュオ・アルバム

魚返明未&井上銘Ⅱ

「魚返明未&井上銘Ⅱ」
(リボーンウッド RBW-0039)

日本の音楽界をリードするトップ・ギタリスト井上銘と、まばゆいばかりの感性のひらめきを思わせるピアニスト、魚返明未(おがえり あみ)は共に34才。ジャズだけでなくロック、ポップス、クラシックなど、幅広い音楽と向き合ってきたふたりの演奏は、いままでのデュオになかったようなフレッシュな響きをもっている。

彼らは2022年にデュオ・アルバムを吹き込んでいて、これが2作目。魚返のオリジナルが8曲と、井上のオリジナルが3曲。<ゆらゆら><影のつづき><陽射し>などのタイトル曲からも分かるように、どれもが彼らの日常の中から浮かび上がった風景や未来への夢をテーマにしたものばかりで、ナチュラルな表現の中に彼らの心象が見え隠れする。作品への共感を示し合うように、ふたつの楽器が寄り添い、溶け込んで、自己を主張しながらも曲のもっている世界観が描き出されてゆく。若々しい感性の出会いによって、まだまだ未知のデュオ演奏の可能性を感じさせる一作と聴いた。

筆者紹介

岡崎正通

岡崎 正通

小さい頃からさまざまな音楽に囲まれて育ち、早稲田大学モダンジャズ研究会にも所属。学生時代から音楽誌等に寄稿。トラッドからモダン、コンテンポラリーにいたるジャズだけでなく、ポップスからクラシックまで守備範囲は幅広い。CD、LPのライナー解説をはじめ「JAZZ JAPAN」「STEREO」誌などにレギュラー執筆。ビッグバンド “Shiny Stockings” にサックス奏者として参加。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。