第八回
デュエットの楽しさを満喫できる名アルバムの数々

2018.09.01

文/岡崎 正通

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ポップスやジャズの世界でもデュエット・アルバムは花盛りである。とくにビッグ・ネームのデュエット作品は、とびきりゴージャスな内容や企画性をもっているものも多く、それらはデュエットという枠を超えて音楽の楽しさを何倍にも味わわせてくれる。そんなデュエット作品の中から、とくに印象にのこっているものをピックアップして、ご紹介したい。

♯22 スーパースターばかりの豪華な顔ぶれに魅了されるデュエット・アルバム

パートナーズ/バーブラ・ストライサンド

「パートナーズ/バーブラ・ストライサンド」
(ソニーミュージック SICP-30729)

アメリカのジョー・ビジネス界を代表するシンガー、女優であるバーブラ・ストライサンドが2014年に発表したデュエット・アルバム。これまでにもフランク・シナトラやトニー・ベネットをはじめ、多くのビッグ・ネームがデュエット作品をのこしてきているものの、このバーブラのものもまったくひけをとらない多彩な内容。彼女がデュエットする相手がビリー・ジョエルやスティービー・ワンダーからマイケル・ブーブレ、ベイビーフェイスといったスーパースターばかりで、その顔ぶれの豪華さにも驚かされる。

スロー・テンポのバラードが中心で、どの曲でもバーブラはのびやかな歌声を聴かせるだけでなく、ゲストとハートフルな会話を交わしてゆく。自身の大ヒット曲<追憶>はライオネル・リッチーとのデュエット。ビリー・ジョエルの<ニューヨーク・ステイート・オブ・マインド>もバーブラが加わることによって、ロマンティックな世界がどこまでも広がってゆく。まさに最高のエンターティナーならではの完璧な音創り。バーブラは2016年に、ハリウッドスターたちとミュージカル曲をデュエットした「ムーヴィー・パートナーズ」(SICP-30959)もリリースしていて、こちらも聴きごたえをもった楽しい作品だった。

♯23 偉大なエラとルイに捧げられた、現代のデュエット・アルバム

サヴォイでストンプ/ニッキ・パロット・フィーチャリング・バイロン・ストリップリング

「サヴォイでストンプ/ニッキ・パロット・フィーチャリング・バイロン・ストリップリング」
(ヴィーナス・レコード CD⇒VHCD-1238,SACD⇒VHGD-0296)

1950年代に名門レーベル、ヴァーブに吹き込まれたボーカル・デュエットの名盤に「エラ&ルイ」「エラ&ルイ・アゲイン」がある。ジャズ界の御大、エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングという巨匠どうしが、余裕たっぷりに息の合ったデュエットを聴かせた傑作アルバム。今年はそのエラが生まれてからちょうど100年という節目の年に当たっている。そんな年に、現代の人気シンガーであるニッキ・パロットが、エラへのトリビュート・アルバムを録音。しかも「エラ&ルイ」に含まれていたナンバーを多くとりあげているのが注目される。そこでルイのパートを受けもつのが、トランペットとボーカルを聴かせるバイロン・ストリップリング。

バイロンは日本ではあまり知られていないものの、アメリカではルイに捧げるコンサートやミュージカルでルイの役をこなしてきたこともあって、ルイのキャラクターを知りつくしており、ここでも歌とトランペットを自在にこなしながら楽しい雰囲気を作りあげてゆく。ニッキ・パロットもエラのフレージングをしっかり自分のスタイルにとり込んでいるところから、スマートな中にジャジーなセンスが生かされた歌唱が耳にできる。ニッキ・パロットはデビュー当時に“歌うベーシスト”というキャッチ・コピーが付けられていたように、ベース・プレイも上手く、ここでもベースを弾きながら歌う持ち前の個性を発揮。タイトル曲をはじめ、<チーク・トゥ・チーク><サマータイム><我が恋はここに>などポピュラーなものばかりで、単なる巨星へのトリビュート企画というだけでなく、今日のボーカル・シーンの楽しさもたっぷり味わわせてくれる。ヴィーナス・レコードの作品は音の良さでも定評があるので、できれば同時に発売になったSACDで耳にしたい。

♯24 ラテンの情熱と哀愁に彩られたデュエット作

アルティメット・デュエット/アルトゥール・サンドヴァル

「アルティメット・デュエット/アルトゥール・サンドヴァル」
(ユニバーサルミュージック UCCU-1578)

デュエットというのは、必ずしもボーカリストによるものだけとは限らない。キューバ出身で、いまやラテン・ジャズ界のスーパー・トランペッター、アルトゥール・サンドヴァルの最新デュエット・アルバムは、世界中からシンガーを呼び寄せて、曲ごとに歌声とトランペットが溶け合うという、タイトルどおりに“究極の”デュエット・アルバム。それもラテン歌手に限ることなく、ポップス、ジャズ、クラシックの世界まで、大物シンガーが参加しているのはゴージャスの一語!

ラテン・グラミーに4回も輝いたアレハンドロ・サンスとの<壊れた心>や、スウェーデンの人気グループ“アバ”のメンバーだったフリーダが歌う<アンダンテ・アンダンテ>はじめ、ラテンの情熱と哀感がいっぱいに込められている11曲。ラストには2003年に亡くなったキューバの偉大なディーヴァ、セリア・クルースの歌にサンドヴァルのプレイをオーバーダビングして、これも見事なデュエットに仕上げてみせている。

筆者紹介

岡崎正通

岡崎 正通

小さい頃からさまざまな音楽に囲まれて育ち、早稲田大学モダンジャズ研究会にも所属。学生時代から音楽誌等に寄稿。トラッドからモダン、コンテンポラリーにいたるジャズだけでなく、ポップスからクラシックまで守備範囲は幅広い。CD、LPのライナー解説をはじめ「JAZZ JAPAN」「STEREO」誌などにレギュラー執筆。ビッグバンド “Shiny Stockings” にサックス奏者として参加。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。