第六回
モダン・ジャズ 黄金時代の名演を〝世紀の発掘アルバム〟で聴く

2018.07.01

文/岡崎 正通

モダン・ジャズの黄金時代といわれた1950~60年代にかけては、多くの巨匠と呼ばれたプレイヤーたちが、それぞれに圧倒的なスケールで個性的な技を競っていた時代だった。それから半世紀以上ものあいだ、ジャズは彼らが築きあげた遺産をもとに発展をとげてきたのだといっても良いかもしれない。そんな現代ジャズの原点というべきジャイアンツたちがのこした未発表演奏の数々は、いまなお発掘され、多くのファンに大きな感銘を与え続けている。過去のものとはいえ、音質的にもリマスタリングがほどこされて良質なものが多い。現代のデジタル録音とは違うものの、アナログ的な雰囲気の中にどこか良き時代の空気感を漂わせているのが、逆に素晴らしいところでもある。そんな近年の発掘盤の中でも“白眉”と呼べるものに耳を傾けたい。

♯16いま陽の目をみる、正規のスタジオ・レコーディング

ザ・ロスト・アルバム/ジョン・コルトレーン

「ザ・ロスト・アルバム/ジョン・コルトレーン」
(ユニバーサルミュージック UCCI-1043)

50~60年代のジャズ界の最先端を疾風のように駆け抜けていった、偉大なサックス・プレイヤーのジョン・コルトレーン。そんなコルトレーンが63年の春に、ニュージャージーのルディ・ヴァン・ゲルダーで演奏した正規のスタジオ・レコーディングが50数年の時を経て発掘され、全世界で陽の目をみることになった。マッコイ・タイナー(ピアノ)、ジミー・ギャリソン(ベース)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラムス)を従えたレギュラー・カルテットによる演奏。翌日には「ジョン・コルトレーン・アンド・ジョニー・ハートマン」が同スタジオで録音されていて、そちらは名盤としての評価をほしいままにしてきたものの、本セッションはなぜか陽の目をみることなく、レコーディングの記録が残されただけ、マスターテープの所在は不明のままになっていた。あるいはすでに廃棄されてしまったのかもしれない。

当時マスターテープからコピーしたテープをコルトレーンの遺族が保管していたものが、今回のアルバム用のマスターになった。いままで発表されることのなかった<アンタイトルド>と題されたコルトレーンのオリジナルが2曲。モード・ジャズのバイブルといわれる<インプレッションズ>のピアノレス・バージョン。そしてクラシックの作曲家レハールのオペレッタ「メリー・ウィドウ」の中のメロディーを借りた<ヴィリア>は、すでにリリースされたソプラノ・サックスでなく、テナー・サックスによる演奏が収められている。これらを通して聴くことによって、新しい表現の高みを追求しながら、ひとときも休むことなくさまざまな試みを繰り返していったジョン・コルトレーンの姿が、あらためて浮き彫りになってくる。ジョニー・ハートマンとの演奏を“静”とすれば、こちらは過激なまでに“動”の世界。併せて聴くことによって、当時のコルトレーンの音楽の全体像が浮かび上がってくる。同時にリリースされる“デラックス・エディション”(UCCI-9295~6)には、さらに別テイクが収録されており、こちらもマニアは聴き逃せない。

♯17マイルスの美学にあふれた、コルトレーンとのラスト・ライブ・ステージ

ザ・ファイナル・ツアー~ブートレグ・シリーズVol.6/マイルス・デヴィス&ジョン・コルトレーン

「ザ・ファイナル・ツアー~ブートレグ・シリーズVol.6/マイルス・デヴィス&ジョン・コルトレーン」
(ソニー・ミュージック SICP-31146~49)

前記のアルバムが録音される前、まだマイルス・デヴィス・クインテットのメンバーだった頃のジョン・コルトレーンの演奏も凄絶をきわまりないものがあった。マイルスのバンドに、まったく無名だったジョン・コルトレーンが抜擢されたのは1955年のこと。それから数年の間にコルトレーンは、名実ともにジャズ界の最前線をひた走るトップ・プレイヤーへと成長をとげた。そんなマイルス・クインテットがJATP(ジャズ・アット・ザ・フィルハーモニック)の一員として60年におこなったヨーロッパ・ツアーから、パリとコペンハーゲン、ストックホルムでのステージが収められた4枚組CD。このときコルトレーンはマイルスのバンドから独立して自分のバンド活動をおこなってゆくことをリーダーに申し出ていて、ふたりの間には微妙な感情の交錯があったに違いない。

そんな不安を晴らすかのように、ここでのコルトレーンの演奏は格段にアグレッシブであり、それがクインテットのスリリングなサウンドに直接に結びついている。ライブということで、一曲の演奏が長尺なのも魅力。“ブートレグ・シリーズ”というサブ・タイトルは、完璧主義だったマイルスが生前にリリースの許可を出さなかったところから付けられたものだが、それぞれ地元の放送局がきちんとオン・エアー用に収録したものなので、音質は悪くない。トランペッター、マイルス・デヴィスの圧倒的な存在感と、熱っぽくテナーを吹きまくるコルトレーンの対比に、マイルスの強烈なリーダーシップをみる思いのする白熱のライブ作品になっている。

♯18グラント・グリーンによるファンキー・ジャズの真髄

ファンク・イン・フランス~フロム・パリ・トゥ・アンティーブ/グラント・グリーン

「ファンク・イン・フランス~フロム・パリ・トゥ・アンティーブ/グラント・グリーン」
(キング・インターナショナル Resonance KKJ-1026)

そしてファンキーなプレイを聴かせて人気があったギタリストのグラント・グリーンが、69年と70年にフランスで繰りひろげた演奏。この演奏を発掘したレゾナンスは、近年ビル・エヴァンスやウェス・モンゴメリーの貴重な未発表演奏を発掘して大きな注目をあつめている新興レーベルだ。ブルーノートの専属ギタリストとして人気を得ていた頃のグリーンの演奏は、メロディックな中に強烈なグルーヴを漂わせて迫ってくる。とくにアンティーブ・ジャズ祭ステージでの4曲が聴きもの。やはりライブらしく一曲一曲が長い演奏で、27分にも及ぶ<ハイヒール・スニーカー>をはじめ、ブルージーなグリーン節がこれでもかと迫ってくる。

筆者紹介

岡崎正通

岡崎 正通

小さい頃からさまざまな音楽に囲まれて育ち、早稲田大学モダンジャズ研究会にも所属。学生時代から音楽誌等に寄稿。トラッドからモダン、コンテンポラリーにいたるジャズだけでなく、ポップスからクラシックまで守備範囲は幅広い。CD、LPのライナー解説をはじめ「JAZZ JAPAN」「STEREO」誌などにレギュラー執筆。ビッグバンド “Shiny Stockings” にサックス奏者として参加。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。