第七回
〝サマー・ジャズ・フェスティバル〟
 往年の伝説的名盤を聴く

2018.08.01

文/岡崎 正通

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ジャズ・ファンにとっての“真夏の風物詩”といえば、今も昔も野外で開かれる“サマー・ジャズ・フェスティバル”が思い起こされる。もはや伝説になった“ニューポート・ジャズ・フェスティバル”を筆頭に、スイスのモントルーや西海岸のコンコードなどの歴史を彩ったジャズ・フェスをはじめ、世界各地で開かれてきたフェスティバルの数は、著名なものだけを挙げても優に二けたを数える。そんなジャズ・フェスティバルのステージで生まれた“伝説的なステージ”の中から、とくに印象的なものに絞って3枚の作品を挙げてみたい。

♯19 ポール・ゴンザルヴェスが繰りひろげた、歴史にのこる大ブロウ

コンプリート・アット・ニューポート1956+10

「コンプリート・アット・ニューポート1956+10/デューク・エリントン」
(ソニーミュージック SICP-4007 ~ SICP-4008)

 1954年の夏にロード・アイランド州の保養地でスタートした“ニューポート・ジャズ・フェスティバル”。その第3回目になる56年の、デューク・エリントン楽団による演奏を収めている。エリントン楽団のステージは、この年のフェスティバルを通じてのハイライトになったのだったが、中でも伝説的に語り継がれてきたのが<ディミニュエンド・イン・ブルー・アンド・クレッシェンド・イン・ブルー>。曲の途中でポール・ゴンザルヴェスが繰りひろげたテナー・サックス・ソロを聴くたびに、いまなお興奮の気持ちを抑えることができない。6分半にわたって続けられる大ブロウ! ソロの途中から観客がざわめき出したと思うとあっという間に総立ちになり、何人かが踊り始めると会場中が火がついたような騒ぎに・・。野外フェスならではの熱狂と化して盛り上がる。そんな会場の模様までも良くとらえているのが、このアルバムのオリジナル・モノラルLP盤。もともとはステレオで収録がおこなわれたのだが、当時はまだモノラルLPが主流だったので、あえてモノにミックスしてリリースされたのだ。ステージ上の演奏もさることながら、客席の興奮がオン・マイクで入っていて、まるで客席の渦の中に紛れ込んだような気分にさせてくれる。

CD時代になって最初に世に出たものにも同じモノラル・マスターが使われていたが、現在入手できるCDは99年に新たにステレオ・リミックスされたもの。会場の興奮音はきれいに削りとられて、ゴンザルヴェスのテナー・ソロがいっそうくっきりと浮かび上がる。より音楽的なマスタリングがなされているとは言えるものの、どちらを好むかは分かれるところで、僕が好きなのは圧倒的にモノラル・マスターのほう。モノラル・マスターのCD盤を手に入れるには中古市場を探すしかないけれども、近年モービル・フィデリティ社からリリースされた高品質LP(MOFI 1-035)はモノラル・マスターを使っているのが嬉しかった。興味をもたれた方は、ぜひ聴き比べていただきたいと思う。

♯20 ベテランどうしの息の合ったギター・デュオ

セヴン・カム・イレヴン

「セヴン・カム・イレヴン/ハーブ・エリス&ジョー・パス」
(Concord⇒ユニバーサルミュージック UCCO-90302)

サンフランシスコ郊外のコンコード市で、町おこしの一環としてスタートした“コンコード・サマー・ジャズ・フェスティバル”。世界的にはほとんど無名だったフェスティバルの名前を一気に知らしめることになったのが、73年のステージに登場したふたりの名ギタリストの華麗なステージである。オスカー・ピーターソン・トリオで鳴らしたハーブ・エリスと、新境地を開拓しつつあったジョー・パス。タイトル曲はモダン・ギターの開祖と呼ばれたチャーリー・クリスチャンがベニー・グッドマン楽団にいた頃に書いたナンバーで、抜群のテクニックだけでなく、歌心あふれるプレイとスリリングな掛け合いが最高だ。ゆたかな音楽性あふれるプレイヤーどうしの、息の合った大人のライブ・ステージ。コンコード・レーベル初期の大名盤である。

♯21 豪雨の中で繰りひろげられた圧巻のステージ

ライヴ・アンダー・ザ・スカイ伝説

「ライヴ・アンダー・ザ・スカイ伝説/VSOPクインテット」
(ソニーミュージック SICJ-89)

豪雨の中でおこなわれた野外コンサート。天気だけはどうにもならないとはいうものの、その豪雨がコンサート会場の素晴らしい演出的な役割を果たしたこともあった。今はなき東京の田園コロシアムでおこなわれた1979年7月の“ライヴ・アンダー・ザ・スカイ”。そのフェスの中でもハイライトというべきVSOPクインテットのステージの夜、東京は激しい豪雨に見舞われた。黄金時代のマイルス・デヴィス・クインテットのメンバーに、トランペッターのフレディ・ハバードがマイルスに代わって参加したスーパー・グループ。ステージで熱演を繰りひろげるミュージシャンに、びしょぬれの聴衆が呼応することから一体感が生まれ、演奏も一段とヒートアップして歴史にのこる名演が生まれた。公演の中止も検討されたほどの、どしゃ降りの雨の中で決行されたステージの模様が、そのまま「ライヴ・アンダー・ザ・スカイ伝説」に収録されている。途中での中断をはさんで、雨の音までもリアルに収録。白熱したプレイの前に誰ひとり帰る観客もなかった圧巻のステージは、まさに日本のジャズ・コンサート史にのこるものだったと言える。

筆者紹介

岡崎正通

岡崎 正通

小さい頃からさまざまな音楽に囲まれて育ち、早稲田大学モダンジャズ研究会にも所属。学生時代から音楽誌等に寄稿。トラッドからモダン、コンテンポラリーにいたるジャズだけでなく、ポップスからクラシックまで守備範囲は幅広い。CD、LPのライナー解説をはじめ「JAZZ JAPAN」「STEREO」誌などにレギュラー執筆。ビッグバンド “Shiny Stockings” にサックス奏者として参加。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。