第四回
さまざまな高音質のフォーマットを楽しむ

2018.05.01

文/岡崎 正通

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久しぶりにオーディオノート社の試聴室にCDを持参していって、2時間ほど美音を楽しませてもらった。あらためて思うのは、この部屋の音がホームユースの最高レベルにあるということ。仕事の関係で日頃からスタジオ・モニターの音に馴染んでいる小生だが、録音の良し悪しを判断するモニターより一段上にあるのが、ここの音だ。聴き疲れしない、いつまでも聴いていたいと思わせる音は、スタジオでの良音とは似て非なるものであることを、またも痛感した。

♯10MQAマスタリングで、正統的なピアソラ演奏を聴く

A Piazzolla by Strings and Oboe/UNAMAS Piazzolla Septet

「A Piazzolla by Strings and Oboe/UNAMAS Piazzolla Septet」
(OTTAVA OTVA-0012)

東京交響楽団のメンバーを中心にした若手アンサンブルが、アストル・ピアソラの名曲ばかりを演奏する。ピアソラが亡くなって、早や25年余り。タンゴの最先端を走り続けたピアソラ作品も、いまやスタンダード的な古典になりつつあって、クラシックやジャズのアーティストたちによっても頻繁にとりあげられ演奏されるようになった。時の流れを感じる一瞬でもあるが、そんな演奏を聴くにつけ、ピアソラの音楽がまったく古さを感じさせることなく、時の流れを軽々と飛び超えたものであるのに、あらためて感嘆させられる。

音楽の内容もさることながら、アルバムで注目されるのはオーディオ・マニアの間で話題になりつつあるMQAというマスタリングのフォーマットが使われている点。MQAは “Master Quality Authenticated” の略で、ハイレゾ音源と同クラスの最高音質をCDで味わうことのできる圧縮技術。専用機でなくても聴けるが、MQAに対応した機器に繋ぐことによって真価が発揮される。そのMQAマスタリングによる世界初のCDアルバムが「A Piazzolla by Strings and Oboe」。

まずは<オブリビオン>の優雅なオーボエの響きに心を奪われ、ヴァイオリン・リードの演奏が続けられたあと、ラストの哀しみに満ちた<soledad>(孤独)では、美しくもせつないメロディーの魅力が100%描きつくされる。ピアソラ作品の流麗さ、神秘さ、力強さをストレートに押し出してゆくアレンジと、それらを素直に聴かせるプレイヤーたちに、とても好感がもてる。 “ピアソラを超える” ことなど、とても不可能であるとは思うものの、こういう綺麗で正統的なアプローチは大いにありかもしれない。そして、まるで目の前で演奏しているかのような臨場感あふれる音。まもなくユニバーサル・ミュージックからも、過去の音源がMQAフォーマットによる「ハイレゾ名盤CDシリーズ」として発売になる予定なので、そちらも併せてレポートしてみたい。

♯11オルガン・ジャズの重層的な響き

オルガニストⅡ/KANKAWA

「オルガニストⅡ/KANKAWA」
(T-Toc XQDN-1040)

ジャズ・オルガンの巨人ジミー・スミスの薫陶を受け、もっとも正統的な後継者であるKANKAWA(寒川敏彦)の演奏は、ソウルの匂いを強烈に漂わせている。真正面からジャズに切り込んだ「オルガニスト」(XQDN-1701)は音楽内容はもとより、オルガンの重層的な響きをあますところなくとらえた録音の素晴らしさでも話題になったもので、ハイクォリティCDをはじめ、ハイレゾテータやダイレクト・カッティングによるアナログ盤もリリースされ、ポーランドのHigh Fidelity誌で2011年度ベスト・レコーディングにも輝いた。

その続編的な感じで2013年にリリースされたのが「オルガニストⅡ」。透明感をもった高音とペダルの重低音が絡み合って、演奏者の思いのようなものまでが生々しく再現される。オルガンによるバラード・アルバムという狙いも異色ながら、親しみ易いメロディーの曲ばかりで深いソウルを感じさせる。ソロで演じられるラストの<アメイジング・グレイス>も壮麗なオルガンの魅力を100%描ききっていて見事。高音質にこだわるティー・トック・レーベルの中でも屈指の名盤であると思う。

♯12究極に描かれるサックスの人肌感

フレンチ・ララバイ/ハリー・アレン・カルテット

「フレンチ・ララバイ/ハリー・アレン・カルテット」
(ヴィーナス・レコード CD:VHCD-1233, SACD:VHGD-272, LP:VHJD-131)

昨年に25周年を迎えたヴィーナス・レコード。ジャズのメインストリームをゆくアルバムを多く送り出してきたヴィーナス・レコードは、どの作品も録音の良さが売りもののひとつになっていた。 “ハイパー・マグナム・サウンド” を標榜し、重量感をもったリズムにホーンが乗ってくる。それは “21世紀のブルーノート・サウンド” だと言ってもオーバーではないかもしれない。

そんなガッツあふれるヴィーナスの特徴をとくに良くとらえているのが、このハリー・アレンのワン・ホーン・アルバム。テナー・サックスを吹くハリーの息づかいや、ホーンから空気が出てくるときのゾリゾリした感じが生々しくとらえられている。曲目は<シェルブールの雨傘><おもいでの夏>などのミシェル・ルグラン・ナンバーやシャンソンの名曲などで、軽やかにスイングさせてゆくのが心地よい。いくつかのフォーマットでリリースされているので、CD→SACD→LPの順に聴き比べていった。通常のCD盤ももちろん並以上であるものの、やはりSACDには極上のリアル感がある。SACDはマスタリングも新しくやり直しているようだ。そして圧巻はアナログLP。その迫真のサウンドでサックスの人肌感というか、サブトーンの魅力が究極といえるほどに生々しくとらえられているのに圧倒された。

筆者紹介

岡崎正通

岡崎 正通

小さい頃からさまざまな音楽に囲まれて育ち、早稲田大学モダンジャズ研究会にも所属。学生時代から音楽誌等に寄稿。トラッドからモダン、コンテンポラリーにいたるジャズだけでなく、ポップスからクラシックまで守備範囲は幅広い。CD、LPのライナー解説をはじめ「JAZZ JAPAN」「STEREO」誌などにレギュラー執筆。ビッグバンド “Shiny Stockings” にサックス奏者として参加。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン理事。